【悶絶!】想定外の企業再建プロジェクト

営業店で予想をはるかに超える成果を上げて、やることがなくなった私は、突然異動になりました。

前の営業店での働きぶりが評価され、ある特命プロジェクトに抜擢されたとか・・・

イヤ、それよりもっとボーナスを上げて欲しかった・・・😓

2−5.紙爆弾 💣

昔々、あるところで『土地神話』が完全に崩壊し、倒産寸前になった会社がありました。

でも、倒産してしまうと、その国の人々が困ることになる。

そこで、似た事業内容の2社を合併させて不良債権を処理し、業務を統合して効率化し、経営再建することになったそうな・・・

再建する方針が決まり、計画策定・実行担当者として呼ばれたのは私。

後になってわかるのですが・・・
とてつもなくクールでハードな交渉能力が求められる任務でした。

コミュ障で人見知り、運動オンチで体力がない私には、手に負えない想定外のプロジェクトでした😭

テレビドラマなら、頭脳明晰で剣道部出身とかのタフガイが配役されるはずなのに。

事実は小説より奇なり。

今回のリストラのような後向きの案件では、役員ポストの削減は必須です。

自力再建の目処が立たない以上、バラ色の再建計画などありえません。

大きな痛みを伴うものです。

自分の仕事がなくなると脅威に感じた人々が、反対の雄叫びをあげます。

再建方針の提示後、管理部門の暇な役員や部長たちが、重箱の隅をつつくように山のような質問状を送ってきます。

通称「紙爆弾」と呼ばれていました。

放置しておくと、時限装置で致命傷を負いかねません。

爆発物処理

そうした危険物の処理にも、限られた時間と労力を割かれます。

一方、本来の仕事は、まず両社の業務部門に仕事の内容を具体的に聞いて、合併後の新しい業務フロー案を設計し、それぞれの会社への説明すること。

当然、修正要望が出るので、その対策を検討して、新業務フロー案を再調整。

新業務フローが概ね固まったところで、中期の収益計画に落とし込みます。

両社が自分たちでプロジェクト・チームを立ち上げて、直接協議できるまでの土台を作り、その橋渡しをしなければなりません。

文句をつけられない経営再建計画案を策定した上で、関係者、関係組織すべてとのハードなネゴシエーションが必要でした。

人手がなく、大量の資料を1人で作ります。

平日は終電ギリギリまで残業、土日出勤は当たり前。
休みも取れず、体も心もボロボロ🤢

ストレスはいつも最高潮⤴️

ある日、緊急事態なのに駄々をこね続ける相手に業をにやし、電話で怒鳴り合ってしまったことがありました。

相手は10歳以上も年上。人生の先輩です。

大学まで柔道をやっていて、どっしりと小山のような体格。
眼光するどく、一瞬のスキも見逃しそうにありません。
私が一番苦手なタイプ。

2−6.呼び出し

「お前、今晩8時に〇〇に来い!」

ある居酒屋に呼ばれました。

接近戦はヤバすぎます
あっという間に襟首をとられて、羽交い絞めにされ、落とされるかも・・・

その居酒屋は、地下街の片隅にあり、気軽で庶民的な雰囲気と油の匂いが漂っていました。

壁に貼られたお品書きの紙が薄茶色に染まり、時代の流れを感じさせます。

ここで、夜な夜な多くの会社員が、会社への不満や、上司への愚痴、人事の噂話を肴に、酒を酌み交わしストレスを発散させ、明日への英気を養ってきたのでしょう。

しかし、私にとって、ここは命をかけた決戦の場。アドレナリンがほとばしりでます。

油断禁物!!

相手の都合のよい話を聞いて、言いくるめられてはいけません。
鋼鉄のようにガードを固め、2者会談に臨みます。

「ビールでいいよな? 生大2つ」
「あ、グラスでいいです」
「あ飲まねぇのか・・・
じゃ、ビール生大1つと、グラス生ビール1つ。
あと、焼き鳥盛り合わせとお新香ね」

つまみはシンプル。

相手に話を合わせつつも、酒の勢いで無理難題をふっかけられないように、身構えるばかり。緊張で何を話したのは覚えていません。

何杯目かの大ジョッキをグッと飲み干すと・・・

先輩は私の目を一瞬グッと睨んだあと、視線を落とし、言いました。

「オマエさ・・・
オレだって再建が必要なのは、わかってるよ。

でもな、上からの指示なんだ。

もし、言うことを聞かないと、社内で吊るし上げられて、ひどい目にあう。

もう何人もヤラれてる。

今日の電話だって、周りに人たちに聞かれて、上にコッソリ報告されちゃうんだよ・・・

わかってくれよ・・・」

そして、先輩は口をつぐみました・・・

風の噂で聞いたことがありました。

東京のどこかにサファリパークがあり、どう猛な猛獣たちが放し飼いにされている。
その猛獣たちを操っている猛獣使いがいて、か弱いウサギやリスたちは、猛獣の餌食にされないように、言われたことを何でもして、なんとか生き延びているとか・・・

たぶん都市伝説でしょう・・・
もしかしたら、人目につかない地中深くに暗闇の都市があるのかも・・・

「なるほど・・・ 大変ですね」

どうやら生きたまま帰れそうです。

「ありがとうございました。また仕事に戻りますので・・・」

私は、若気の至りで、自分のミッションをやり遂げることで一杯一杯。

相手の立場を考える余裕などありませんでした。

まさかまさか、10歳以上も年上のしかるべき役職の人が、社畜並みの扱いとは・・・?!

平社員にとって、経営層のパワハラは想定外の外でした😱

やがて、一部の抵抗勢力も、具体的な対案もなく反対し続けると、会社が倒産し、自分たちの責任問題になると気づいたのでしょう。

経営再建案に同意せざるを得なくなりました。

ただそんなことは、みんな最初から分かっていたはずです。

しかし、誰も失敗を認めたくない。

若くて未熟だった私は、ストレスの発散先にされたのです。

そうした嫌がらせを真に受けてしまったのは、私の問題でもありました。
ただ受け流しておけば、よかったのです。
所詮なるようにしかなりません。
経験不足でした。

「もし、当社が潰れたら、何十年間もお取引をいただいてきたお客様に多大なご迷惑をおかけすることになる。そんなことは決してあってはならない」

最終局面に入り、業務部門の担当役員から、ようやく真っ当な意見が出はじめました。

こうして合併・再建計画は少しずつ前に進んだものの・・・

その会社の決算期末日までに、関係している複数の会社の取締役会で合併・再建計画の機関決定ができなければ、倒産してしまう・・・

タイムリミットは刻一刻と迫ってきます。

決算期末まであと2週間を切っても
「この再建案では認めらない」
というところがあり、資料を作り直しては却下。
さらに調整して、資料を作り直しては再却下・・・
さらに調整して、資料を作り直しては、またまた却下・・・

最後の1ヶ月はほとんど寝る時間もなく、心身ともに追い詰められました。

決算期末日の3日前になんとか概ね承認を取り付けて、そこから臨時の取締役会などで機関決定の手続きに入ってもらい、すべてが正式に承認されたのは決算期末当日。

滑り込みセーフ・・・

2ー7.初めての感覚

何とか任務は完了したのですが、達成感が全くない。やり場のない虚無感に襲われました。

この感覚は人生で初めての体験でした。

今から考えると、誰がやっても一筋縄ではいかない事案だったろうと思います。

キリギリだろうと何だろうと、期日までにすべて完了しやり遂げたので、素直に喜べばよかったのだと思います。

普通の人なら、酒を飲み、馬鹿騒ぎして、ストレスを発散するのに、この期末日ほどふさわしい日はなかったでしょう。

でも、私の心のうちは穏やかではありませんでした。

空気を読めないコミュ障の心の痛みは、本人しかわかりません
いや本人自身も自分の気持ちがわからないのかも・・・

半沢直樹のように、親の仇をとるために、銀行のトップまで登りつめたいと明確な目的がある人なら、どんなに辛い状況でも耐えられるのでしょう。

精神的にも肉体的にもストレスが強くかかりすぎて、もうこの仕事を続けるのは無理と直観しました。

ビジネスで、想定外の困難な状況に突然陥ることは、さほど珍しくありません。

そんな時に、自分が心から好きな仕事でないと、耐えられないのだなと痛感しました。

それなら、残りの人生は好きな仕事を選ぼうと、退職を決意するきっかけとなりました。

生きる意味がわからなくなるほどのツライ痛みは、人に新たな行動を促すのかもしれません。

その痛みをありのままに受け入れることで、変化が可能になるのです。

「こんな仕事、もうやってられない・・・」

そんな態度が職場で出てしまい、部長が知るところになると、数日後、突然異動になりました。

これ以降、退職するまで、私が通常業務に戻ることはありませんでした・・・

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