【金融再編】勝ち馬に乗れ!CRM構築プロジェクト(後編)

任命されたプロジェクトには、異なる部門の2人のトップがいて、2人の指示を同時に実行しなければならないポジション。アツい想いの2人の間には妙な緊張感が漂っていました。前編はこちら↓↓

2-11.かみ合わない!本当の理由

伝統的に金融機関は、法人営業を人海戦術で行っていたため、マーケティングと営業の区別が明確にはされていませんでした。

消費者が起こす購買行動のプロセスとして、有名なAIDMAの法則があります。

金融自由化の以前の金融機関の収益力は安定していて、生産性はあまり考慮されることなく、営業パーソンがマーケティングから営業、事務を1人でこなしていたのです。

つまり、飛び込みで新規のお客様を訪問し、まず注意(A)を引き、何度も訪問して関心(I)をもってもらい、親しくなって商品サービスの話をして欲しい(D)と思ってもらい、それを何度か繰り返し記憶(M)してもらって、最後に成約(A)する。

マーケティングの観点からいえば、法人営業のAIDMAのプロセスのうち、最初の4つAIDMは、あえて人がやらなくても、広告やネットなどのメディアで代替できる可能性があります。

法人営業部門はマーケティングのプロセスも含めてすべてを営業と考えていたのに対し、情報システム部門は、インターネット・マーケティングの活用なども考慮した上で、マーケティング的な観点を新しい法人営業システムに盛り込むべきと考えた。

それが、2人のトップがかみ合わない本当の原因だったのでは・・・と思いました。

「誰に」「何を」売るのかという目的に応じて、マーケティングや営業で用いる最適な手段は決まります。

「誰に」「何を」という目的があいまいなまま、システムという手段を検討すると、議論がかみ合わなくなりますよね

手段が目的化して、迷走するのは、よくある間違いです。

2-12.隠し技

実を言うと、私にはある「隠し技」がありました・・・

コミュ障の人見知りで、運動オンチで、酒も飲めず、記憶力も悪いという弱点を補うために、新入社員の頃、パソコンで顧客データベースを作り、営業に必要なデータを蓄積し一元管理していました。

優秀な営業パーソンなら、お客様の空気を読みながら、臨機応変に対応し、成約へ結びつけられるでしょう。

しかし、人見知りでコミュ障の私には、空気を読むのがむずかしく、データを使った営業の方が簡単でした。

飛行機の操縦法で例えると、お客様の状況を観察しながら行う一般的な営業のやり方が「目視飛行」なのに対し、データを管理・分析しながら行う営業のやり方は「計器飛行」のようなものといえます。

マイCRMのために、データベースのプログラミング技術も独学で身につけました。

営業店を転勤しても、マイCRM営業システムをバージョンアップし続けました。

データを蓄積・管理・分析しながら行う営業のメリットはいろいろあります。

例えば、データが蓄積され、どのようなお客様なら成約しやすいかがわかると、成約しやすいお客様を選び出すことができます。

また、今日はどのお客様に、何をすれば、成約の可能性が最も高まるかを一覧表にした「やるべきリスト」を見て、優先度が高い順に営業していくと、いちいち考えずに、楽に早く成約できます。

「計器飛行」による半「自動操縦」みたいな感じです。

今なら、セールス・オートメーションと呼ばれるものです

入社後、3年くらい経つと、他の人よりも少ない時間で、目標を達成できるようになりました。

あまりに早く目標を達成してしまうと、暇と思われて仕事が増えてしまいます。

そのため、忙しく働いているフリをする処世術も身につけていきました 笑

3つ目の営業店では、一瞬ではありましたが、全国トップの稼ぎ頭となりました。

当時の金融機関の業務システムの営業面での弱点・改善点も、現場で営業をしながら、ほぼつかんでいたのです。

2-13.勝ち馬に乗れ!

ところが、こうした問題点や解決策を、自分からわざわざ指摘するのはリスクが高いことは、その前の経営再建プロジェクトの体験から学んでいました。

「隠し技」は隠しておく必要がありました。だいぶ昔のことになるので、はじめてここで話しました。

というのも、問題点を他人から指摘されると、それが的をついていればいるほど、恥ずかしさや屈辱感に襲われて、感情的になり、事実であっても、受け入れられなくなるからです。

心理用語では「否認」といいます。

例えば、アルコール依存症の人が「自分はアルコール依存症ではない」などと言い張るようなもの。思考停止、行動停止に陥ります。

これを防ぐ方法の一つは、問題と解決策を自分で気づいてもらうことです。

他人から問題を指摘されると恥ずかしいですが、自分で解決できる目途があれば「ちょっと待ってください。すぐやります!」と、問題をすんなり受け入れられます。

さらに問題を自分から気づいて、解決できるのは「オレ、やるじゃん!!」と自信を持てます。

だから、問題の解決に向けて、他人から言われなくても、すぐに自分から行動するようになります。

これは、マーケティングや営業でも「お客様が自らすぐに行動(=購入)したくなる」、とてもとても重要で普遍的な心理です。

忘れないようにメモしてくださいね!!

実際に私が何をしたか、詳細は省きますが、簡単にいうと・・・

最初に集めた本部各部署の要望リストをもとに、各部署を訪れて、出ている要望について、実際にどんな問題が起きているかを、具体的に聞いていきます。

すると、問題について話し始めます。

(=自分で問題に気づいていく)

出てきた具体的な問題の中で、開発予定の新しい法人営業CRMシステムで解決できそうなものに対して、

「その問題は、新・法人営業CRMシステムで、○○ができれば、解決できるかもしれないですね。どうでしょうか?」

と、解決のヒントを提示して、解決策に意識を向けてもらいます。

「なるほど、新システムを使えば、そういうこともできるんですね・・・」

「そうですね! そのほかにも、△△みたいなこともできるかもしれません。もし、それができたら、今の仕事はどう変わりますか?」

「いや、メチャ便利ですね~」

こんな感じで、各部署を訪問しては、ニーズウォンツに変えていきます。

新しい法人営業CRMシステムを、水や空気のような「なければ困るシステム」から、「ぜひ利用したいシステム」へと、期待を高めたのです。

AIDMAで言えば、Interest(興味)からDesire(欲求)へとマーケティングのプロセスを進めていきます。

こうした社内マーケティング活動を根気よく積み重ねていくと・・・

「A部では、××という問題を、新・法人営業CRMシステムを使って、○○のように解決しようとしています。

B部では、△△という問題を、新・法人営業CRMシステムを使って、◇◇のように解決しようとしています。

さらに、C部では・・・」

という、新システム活用事例案のリストができてきます。

大体、半数くらいの部署が、新システムの有効な活用シーンを具体的にイメージできるようになると、

こんなに他の部署が、新・法人営業CRMシステムを有効活用しようとしているのに「自分の部署が上手く活用できなければ損かも」という雰囲気が漂い出し・・・

「私の部はこんなふうに使いたい!」

「うちの部は、こういう使い方できるかな?」

残された部署もバタバタと要望を上げてくるようになりました。

私はこれを「勝ち馬に乗れ!」作戦と呼んでいました。社会心理学では「バンドワゴン効果」といいます。

ある選択肢が多数の人に支持されていることで、その選択肢がさらに選ばれやすくなる現象をいいます。

こうして、新・法人営業CRMシステムの開発プロジェクトは、法人営業に関わる社内の全部署に周知徹底されました。

AIDMAのプロセスで言えば、M(記憶)に進んだのです。

最後の仕上げは、AIDMAの最後のA(行動)です。

これは、まず各部署から出てきた要求をとりまとめ、法人営業部門の総意として、情報システム部門に依頼し、システムを開発すること。

次に、出来上がったシステムを本部の各部署と営業店で利用して、お客様に最新の金融ソリューションを提供することです。

2-14.社内営業

このような情報システムが全社で利用されるための決め手は、役員に利用してもらうことです。

役員が使えば、営業店長も使いますし、その部下も使います。

そこで、地域毎に営業店を統括している担当役員1人1人に新システムの利用方法を説明するために、全国を回りました。

社内営業です。

外を歩くと汗が噴き出る、ある夏の暑い日、出張で、ある地域の担当役員に説明にいきました。

役員向けの画面は、シンプルに作っていたので、説明時間は10分くらいです。

一通り説明が終わると・・・

「はい、わかった」

と、その役員はガラケーをいじり始めました(当時まだスマホがなかった)

「いつも、来てくれ、来てくれって・・・うるさいんだよね」

嬉しそうにガラケーの画面を見せてくれました。

浴衣まつり、来てね~💖💖」

人は、知っていて、好きで、信頼している人からの営業は喜びます。

「モテモテですねぇ~」

「アハハハハ・・・」

オネエちゃんと浴衣には勝てん・・・

こうして大きなトラブルもなく、新・法人営業CRMシステムの導入は進んでいきました。

コミュ障がプロジェクト・リーダーで、チームメンバーはたいへんだったと思います。私の欠点を補い、いろいろと根回ししてくれ、本当によく頑張ってくれたと心から感謝しています。

この金融機関本体のプロジェクトが完了すると、その後4つの関連会社の営業システムの統合プロジェクトの依頼を受けました。

それらをすべてやり遂げて、思い残すことなく、会社を退職できました。

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